
相続がこじれると、それまではとても仲良くやってきた家族や親族が断裂して、憎悪に満ちた争いに発展することが少なくありません。

被相続人からすれば、「自分の築いた財産を配偶者や子供や孫たちへの最後の贈り物として残せてよかった」と思って世を去ったというのに、自分の死後、その遺産が家族の分裂と絶縁の要因になっているのを草葉の陰からのぞいて残念に思うことになります。例えば、このような「すれ違い」はどこの家庭でも起こり得ます。

【事例1】家業や介護をがんばった長男 vs 独立した次男
親の家業を長年手伝ったり、晩年の介護を一人で担ったりしてきた長男は、「これだけ貢献したのだから、実家の土地と建物は自分が当然もらうべきだ」と考えており、親の方も、次男にはかなり昔にはなるが学生時代から仕送りや結婚式費用等でなんだかんだ言って結構なお金を渡してきたことを考慮して、全財産を長男に残す遺言を残したとします。しかし、いざ相続が発生すると、別の場所で暮らしていた次男から「法律上の権利(遺留分)があるんだから、実家を売却してでも僕の分の現金を払ってくれ」と主張され、話し合いが完全に泥沼化(こう着状態)になってしまうケースです。
【事例2】「お姉ちゃんだけズルい」の生前贈与問題
遺言書がない場合、過去の「えこひいき」も火種になります。「お姉ちゃんは結婚するときに自宅の建築費用を援助してもらったのに、自分は何ももらっていない!あの時のお金も遺産にカウント(特別受益の持ち戻し)して計算し直すべきだ」と妹が主張し、何年も前の古い記憶や通帳を持ち出しての泥沼の言い争いに発展することも少なくありません。
【法改正ワンポイント注意】 民法の法改正により、遺留分を計算する際の生前贈与(特別受益)は「亡くなる前10年間」のものに限定され(民法1044条3項 2019年7月施行)、また、相続発生後10年が過ぎると過去の特別受益を主張できなくなるなどの期間制限が設けられました(民法904条の3 2023年4月施行 民法903条)。
しかし、親が亡くなってすぐに開始する通常の遺産分割協議では、原則として何年前の生前贈与であっても特別受益として持ち戻しの対象となります。
この法改正については、「亡くなる前の10年より前の生前贈与は、すべて特別受益の対象から外れる」と遺留分の制限ルールと混同して誤解されている方が非常に多いので要注意です。「昔の不公平」は、今でも感情的な対立を生む強力な原因になり得ます。
遺言があれば、このような事態をある程度防ぐことができるケースもあります。 しかし、遺言が他の相続人の「遺留分(法律上最低限保障された遺産の取り分。たとえば、子の場合、各自の法定相続分の2分の1)」を侵害している場合には、死後に残された家族の間で金銭の生々しい請求(遺留分侵害額の請求)という新たな紛争が勃発します。また、遺留分の範囲内であっても、受け取る分が少なかった相続人は、遺言を残した被相続人と多くを得た相続人に対して不公平感や被害者意識で情的に激しい不満を抱き、優遇された兄弟姉妹と関係を永遠に断絶させてしまうこともあります。
財産を残す側にできることは?家族みんなでの「生前協議」という選択肢
財産を残す人には、遺言で自分の死後に財産をどのように分けるかを決める権限があり、遺言しないよりはしたほうがいいのはもちろんですが、遺言の内容が残された家族全員が満足、納得できるものになることはなかなか難しく、遺言がかえって相続人間の紛争の種になりうることは上記のとおりです。自分が死んでしまった後には、どれだけ子供たちが揉めていても、仲裁に入りたくても入れません。

それであれば、「自分が生きているうちに、子供たちを集めて『亡くなった後の遺産分割』に相当する話し合いを行って、それを踏まえてできるだけのことをすればいいのではないか」というのが、最も有効な解決策になります。推定相続人となる人たちに、今のうちにそれぞれの思いや本音を打ち明けてもらって、それを踏まえた相続ができるように準備を進めるのです。
法的には、遺産分割協議は、相続開始後、つまり相続人が死亡した後に行って合意に至った場合のみ有効であり、被相続人の存命中に相続人同士で遺産の分け方を取り決める生前における遺産分割協議は、無効となり法的な効力を持ちません。被相続人となる人には遺言で自分の財産の処分を決める権限があるのに、存命中にもかかわらず、その人を除外して推定相続人同士で勝手に亡くなった場合の遺産分割を決めるなどあり得ない話だからです(もっとも、法的効力はありませんが、被相続人が認知症等で遺言したり協議に参加できないケース等では、将来の遺産分割に備えて推定相続人間で生前に協定を結んでおくことには、事実上、実際の相続開始時の分割協議がスムースに進みやすくなる効果は期待できます)。
これに対して、上記のように、被相続人となる方が主導して、将来自分の死後に相続人となる人たちと話し合いを行って、意見や希望を把握し、それを遺言や生前贈与等に反映させるための話し合いは、無効となる生前の遺産分割協議とは異なります。また、単なる推定相続人間の協定とは異なり、被相続人となる方が主導して遺言や生前贈与という形で協議を法的効果のある形に反映させることができる点で実効性があります。
この話し合いのことを、亡くなった後に行われる遺産分割協議に対して、亡くなる前(生前)に被相続人となるべき方が主導して生前贈与や死後の財産分けについて協議を行うという意味で、「生前協議」と呼ぶことにします。

「生前協議」が整えば思い残すことはない
具体的には、生前協議を行い、以下のような「法的なワンセットのスキーム」を遺言者が生きているうちに主導して作り上げます。

- ① 生前贈与のクリア化 「妹には今、まとまったお金を贈与する。その代わり、実家の土地・建物は長男に残す」といった合意を全員の前で形成し、後々のトラブルを防ぐための(特別受益の持ち戻し免除条項などを盛り込んだ)贈与契約書を交わします。
- ② 特別受益の持ち戻し免除を盛り込んだ遺言 「過去にお姉ちゃんに渡した住宅資金は、死後の遺産分割の計算からは除外する(持ち戻し免除)」という明確な意思表示を盛り込んだ、不備のない遺言書を作成します。
- ③ 生前の遺留分放棄(家庭裁判所の許可) 実家や事業を守るために特定の相続人に財産を集中させたい場合、他の兄弟に納得してもらった上で、生前に家庭裁判所へ「遺留分の放棄の許可」を得る手続きをとってもらいます。 (※注:生前の遺留分放棄:相続放棄(借金などのマイナス財産を引き継がないために、相続人が被相続人のすべての権利・義務を放棄する手続きで、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内に、故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述を行う必要があります)とは別の、被相続人が亡くなる前に将来の遺留分を放棄する手続きです。家庭裁判所の厳格な審査が必要で、「① 放棄の合理性と必要性」「② 十分な代償性」「③ 本人の自由意思」が要件とされます。「実家や事業を守る必要性がある」、「十分な生前贈与などの見返りがある」、「本人の自由意思である」といった条件を生前協議でクリアにしていれば、許可が認められやすくなります)
このように、生前に分けられる範囲は分け、死去後の相続については紛争化しない形での遺言や法的手当を、遺言者自身の呼びかけでセットで行うのです。
遺産を「呪い」ではなく「真の贈り物」にするために
この生前協議のプロセスを踏む中で、普段は疎遠になっていたり照れくささがあるためにできなかった、親子や兄弟間の深い対話が生まれます。
もし死後であったなら、生涯にわたる禍根を残す争いになり得た各自の「本音や不満」を、親が生きているうちにぶつけ合う。そうすることで、これまでのわだかまりを解いて、敵対化と絶縁の芽を摘み、場合によってはむしろ家族の関係を良好化するチャンスにもなります。被相続人となる人がまだこの世にいるときに話ができるかどうかで、これだけ大きく関係性が変わりうるのです。財産を残すあなた自身が最終的な判断を下す立場として、そして何より大切な家族の「調整役」として話し合いを取り持つことができます。

親世代からすれば、恵みとして残したはずの遺産が「家族を壊す呪い」となるリスクを未然に摘み取ることができ、遺言するだけで、その執行後の成り行きは当事者となる配偶者や子供たちの負担に委ねるのではなく、自らの意思で家族の未来を守る。そして子供世代にとっては、親が自分たちのためにどれだけ心を砕いてくれたかという、「自分の最後の生き様を伝える真の最後の贈り物」を受け取るよい機会となるはずです。
弁護士の関与の仕方
弁護士は原則として、「利害が対立する双方の味方をしてはならない」というルール(利益相反の禁止:弁護士法や弁護士職務基本規程に定められています)に縛られています。
生前協議は一見、「家族みんなで仲良く話し合う場」に見えます。しかし、法的な本質は「限られた遺産(パイ)を誰がどれだけ取るか」という利害の対立です。したがって、生前協議を一人の弁護士が「家族全員の代理人」として担当することには、仮に全員の同意があっても、利益相反につながるリスクがあります。
- 長男の利益: 「実家を守るために、自分がすべて相続したい」
- 次男の利益: 「自分の将来のために、法律通り半分の現金をしっかりもらいたい」
この状況で一人の弁護士が全員の相談に乗ってしまうと、「長男に有利なアドバイスをすれば次男の利益を害し、次男に有利なアドバイスをすれば長男の利益を害する」というジレンマに陥ります。そのため、仮に全員の同意が得られたとしても、一人の弁護士が全員の「代理人」になることは原則としてできません。
そこで当事務所では、ご家族の関係性や状況に合わせて、以下のような形で関与をさせていただきます。
1. 顧問弁護士として後方支援の形の関与
最も一般的で安全な方法と言えるのが、 弁護士が正面に立たずに顧問弁護士として関与する方法です。顧問弁護士は、遺言書の作成を主に担当し、親御さんの助言者として後方支援の形で関わり、重要な契約や法的手続きそのものはご本人に行っていただきます。

この場合、ご家族から専門家としての法的な手続き等についての説明を受けたいというようなニーズがあるときには、親の「家族で円満に話し合いたい」という希望を叶えるための「事務局」や「司会進行役(モデレーター)」のような立ち位置で生前協議に同席することはありますが、代理人として交渉することはありません。
- この場合のスタンス: 弁護士は配偶者や子供たちの味方ではありません。「お父様(またはお母様)の現在の財産の残し方についての意向はこうですが、お父様としては皆さんの想いや考えを聞いてそれを踏まえて遺言や生前贈与等を進めたいと考えられております。みなさまのご意見はどうでしょうか」と客観的な説明を行い、依頼者のために推定相続人らの意向を集約して、円滑に遺言や生前贈与を行うための交通整理はしますが、配偶者や子供たちの個別の有利不利に加担するアドバイスはしません。
2. 親(遺言者)個人の代理人として関与
親子関係が良好ではなく、直接の連絡が取りづらいようなケースでは、弁護士は「財産を残す親御さん」だけの代理人に就任します。代理人としての弁護士が親御さん個人に成り代わって推定相続人のお子さんらと連絡をとって話し合いを進め、贈与契約等が必要な場合には、代理人として契約の締結等を行うことになります。
3. ADRの利用、または子供たちにもそれぞれ別の弁護士をつける
もし単に疎遠というにとどまらず、特定の子供(例えば次男)が「自分だけ損をさせられるのではないか」と強い警戒心や不満を抱いて敵対的なスタンスであるような場合には、次男側にも別の弁護士をつけてもらい、弁護士同士が協議する形をとります。
または、愛知県弁護士会の紛争解決センター等のADR(裁判外紛争解決手続)で推定相続人の皆さんを相手方として「あっせん仲裁」という話し合いの場を設けて、そこであっせん人という仲立ち役の弁護士に入ってもらって生前協議をする形をとります。 一見、大ごとになって揉めそうに見えますが、お互いに「自分の権利を守ってくれる専門家」がバックにつくことで、感情論を排除した冷静なビジネス交渉のように生前協議を進められるメリットがあります。
【ワンストップでの総合解決】 なお、生前協議においては、場合によっては不動産の売却や移転登記、相続税や贈与税等の税務面への配慮も重要になります。そのため、必要なケースでは、当事務所が日頃から連携している信頼できる不動産業者、司法書士や税理士をご紹介し、ご家族が総合的に満足できるような解決を図ることができる体制を整えています。
後世への最大遺物
人が家族を含めた後世に向けて残すことのできる遺産とはどのようなものか、というテーマについてのすばらしいお話の講演録である内村鑑三さんの「後世への最大遺物」をTHERE IS NO SPOONで公開していますので、ぜひご覧ください!
終活をはじめようかと思われたら一度ご相談ください!
家族に喜んでもらえるための準備をしっかり整えたい、という方はもちろん、終活について気になりはじめたけれど、まだ先のことなので・・・という方も一度弁護士に会って相談しておくことは有意義ですので、興味をお持ちの方はぜひお気軽にご相談ください。














