ADRってなに?

 

第 3の案の法律活動とは?  

クライアントがいかに強硬で、どれほど多くの要求をしてきても、第 3の案を探す考え方によって、法律家のあり方を変えることは可能だろうか?  

答えは「イエス」であり、すでに多少なりともその動きは見られる。多くの司法管轄、政府機関、企業において「裁判外紛争解決( AD R)」の件数が爆発的に増え、人々が裁判に訴えるのではなく、調停人や仲裁人を介在させるようになっているのは良い兆候の一つだろう。プロの調停人として高い評価を受けているピーター・アドラーは「調停はいまや法律と完全に結びつき、司法制度にしっかりと組みこまれている」と話している。  

ADRは、裁判に訴える場合の負担や緊張を軽減する対立解決手段になる。 ADRのアプローチなら、裁判よりもはるかに少ない費用ですみ、はるかに良い結果も期待できる。当事者双方の疲労も格段に少ない。 ADRの一つである調停は、最もシナジーを生みやすい方法であろう。一般的に調停人の関心は、勝ち負けよりも問題をどう解決するかにある。熟練した調停人であれば、泥沼の離婚争いであっても、双方がそれぞれの人生を歩みながら、子どもの養育や財産の共有利用などでお互いに協力し合える取り決めを引き出せる。調停人の努力、その計り知れないプラスの効果は、いくら称えても足りないくらいだ。  

ADRを早くから提唱していた弁護士・調停人のトーマス・ボイルは、調停について「戦場に設けられた平和協定のテントのようなもので、当事者双方を和解という共通の目標に結びつける」と言っている。だが、第 3の案を探すために必要な三つのパラダイムがなければ、 ADRの皮をかぶった訴訟になるのは目に見えている。

ADRそれだけでは、蔑視や自己防御といった凝り固まったパラダイムを突き崩すことはできない。 ADRはあくまで、公平、公正、平等な解決策を見出すことを目指しているのであって、その過程で必ずしもシナジーが起こるとは限らない。アドラーは ADRの限界も指摘している。「我々調停人に共通すると思っていた価値観と手法が、実は共通の土台ではなく、表面的な願いにすぎなかったとわかることがよくある」 

シナジーが目指すのは「本当の共通の土台」に至ることであり、だから根本的なパラダイム転換が必要なのである。競争と妥協のマインドセットを捨て、第 3の案のマインドセットを身につけなければならない。  

Stephen R. Covey
スティーブン・R.コヴィー(「第3の案」97ページ)

ADR(裁判外紛争解決手続)とは?

世の中のさまざまな紛争やトラブルを、最初から大掛かりな「裁判(訴訟)」にすることなく、より柔軟かつ迅速に解決を目指すための有効な仕組みがあります。

裁判によるのではなく、当事者間の話し合い(Alternative:代替的)によって争いごと(Dispute:紛争)の解決(Resolution:解決)を図る手続きであることから、裁判外紛争解決手続「ADR(Alternative Dispute Resolution)」と呼ばれています。

一口にADRといっても、取り扱う紛争ごとに多様な運営主体によって独自の仕組みが設けられており、さまざまな種類が存在します。

一般的には、「民事調停」や「家事調停」、「裁判上の和解」など裁判所が運営するもの(司法型ADR)、公害等調整委員会や国民生活センターの紛争解決委員会などの行政機関・行政関連機関が運営するもの(行政型ADR)のほかに、弁護士会の紛争解決センターなどの民間のADR事業者が運営するもの(民間型ADR)があります。

主なADR機関の具体例と特徴

代表的な3つの解決手続きの比較:「調停」「紛争解決センター」「労働審判」

今回は、このADR等の枠組みをより深く理解していただくために、代表的な手続きである「裁判所の調停」、「弁護士会の紛争解決センター」、「裁判所の労働審判」の3つを例に挙げ、その違いを対比してみます。

トラブルが発生した際、「いきなり裁判(訴訟)を起こす」となると、費用や時間の面で大きな負担となることがあります。そうした際に、訴訟に至る手前の段階で解決を目指せるシステムがこれらの手続きです。

なお、厳密に言えば「労働審判」は裁判所が主導し、審判に異議が出れば自動的に訴訟へと移行する流れが組み込まれているため、完全な『裁判外(ADR)』とは言いきれません。しかし、「訴訟未満のスピード解決システム」として、裁判に至る前に話し合いで解決を図る点において、ADRに近い性質を持つ手続きとして位置づけられることが多い制度です。

これら3つの手続きには、それぞれどのような違いがあるのでしょうか。

① 裁判所の調停:社会経験豊かな調停委員による対話サポート

最も一般的で、広く知られているのが裁判所で行う「調停(民事調停・家事調停)」です。

  • 特徴: 裁判官のほかに、社会的な経験が豊富な民間人(元教育関係者や地域の有識者など)が「調停委員」として間に入ります。

  • 仕組み: 原則として、申立人と相手方が同じ部屋で直接同席して話をすることはありません。双方の当事者はそれぞれ別の待合室で待機し、調停委員がいる調停しつに一方のみが入って、調停委員が、それぞれの言い分を丁寧に聴き取りながら進めます。直接対話ではないため伝達に時間を要することもありますが、離婚事件や遺産分割事件など、当事者同士が顔を合わせると感情的になりやすく、冷静な話し合いが難しい紛争に非常に適しています。

  • 運用面: 基本的にはお互いの譲歩や合意を目指すマイルドな話し合いの手続きです。相手方が「話し合いに応じない」として期日に来席しない場合、手続は「不調」として終了してしまいます(出席を強制する強い力はありません)。

    他方、話し合いがまとまり調停が成立すると、「調停調書」という書面が作成されます。これは確定判決と同じ効力を持ち、将来的に約束が守られなかった場合には強制執行を行う根拠(債務名義)となります。

② 弁護士会の紛争解決センター:法律のプロによる専門的・柔軟な対応

一般的な調停では、専門委員制度といって、建築や医療、不動産等の専門的な分野の紛争について、その分野の専門家をサポート役として選任してもらう仕組みがあります。

しかし、調停制度は当事者同士は同席せずに調停委員を介して伝言ゲームのようにコミュニケーションを行うという仕組みが採用されるために、必然的に、仲立ち役の理解度の不足や認知的な偏りが意思伝達の混乱や断絶を招いてしまう性質を宿しています。

この点で、裁判所の調停委員は必ずしも法的知見や実務経験を有するわけではないため、事案の複雑性や高度な法的構成の理解が必要な案件、建築や医療、最新のITトラブルや複雑なビジネス慣行を伴う紛争等、専門性が高度な事案では、中には調停に適さない紛争もあり、そのような紛争について威力を発揮するのが、弁護士会の紛争解決センターです。調停委員と同じように仲介役の役目を果たす弁護士は「あっせん人」と呼ばれます。弁護士会の紛争解決センターでも、専門性の高い案件については、専門委員制度が活用されます。

  • 特徴: 紛争の仲介役(あっせん人・仲裁人)を務めるのは、すべて実務経験を積んだ法律のプロである弁護士です。

  • 運用面: 双方が直接同席せず、あっせん人のいる部屋に別々に入って話を聞いてもらうという調停と同じようなシステムで行います。裁判所という堅苦しい場所ではなく、弁護士会の会議室等でリラックスした雰囲気のもとで行われます。双方の当事者に「専門家を交えて合理的かつ早期に解決したい」という共通の意思がある場合に、特に高い効果を発揮します。また、調停のように管轄を設けていないところが多く、その弁護士会の地域以外の案件でも受け付けてくれるところが多く、さらに、運営する弁護士会や担当するあっせん人の弁護士によっては、夜間や土曜日の期日指定に対応しているところや、あっせん人の事務所で開催する柔軟な運用をしてくれる場合もあり、裁判所の調停よりもより柔軟な形で利用しやすい設計となっています。

③ 裁判所の労働審判:迅速性を最優先した労使トラブルの特別手続

解雇や雇い止めといった個人の労働トラブルにおいて、迅速な救済を図るために用意された裁判所のスピード解決システムです。

  • 特徴: 裁判官1人と、労働問題の実務経験や専門知識を持つ労働審判員(労働者側・使用者側の代表)2人の、計3人で構成される「労働審判委員会」が審理を担当します。調停や紛争解決センターとは異なり、原則として当事者双方が同じ部屋に同席し、相互に質問や議論を交わしながら生々しい主張を展開する点が特徴です。ですので、通常の調停のイメージで弁護士を代理人に立てずにご本人だけで申し立てをすると、相手方の弁護士から激しい追及を受けて予想外に不利な展開になったり精神的なダメージを受けたりすることがあり得るので、ご自分だけで利用する際には注意が必要でしょう。

  • 運用面: 非常に高いスピード感が特徴であり、手続は原則として「3回以内の期日」で終結します。第1回目の期日から実質的な審理が行われ、委員会側から早期の和解案が提示されることが少なくありません。もし話し合い(調停)がまとまらなかった場合でも、委員会が事案に応じた適切な判断(労働審判)を下します。調停のように「相手が納得しないから終わり」にはならず、裁判所側から一定の結論が示される点が最大の相違点です(この審判に不服があれば、異議を申し立てることで通常の訴訟手続きへと移行します)。

主要3手続の比較一覧表

項目 🏛️ 裁判所の調停 ⚖️ 弁護士会ADR ⚡ 裁判所の労働審判
実施場所 簡易裁判所 / 家庭裁判所 弁護士会の会議室 地方裁判所
管轄 相手方の住所地 なし

原則として相手方の住所地・労働者の現在の、または最後に就業した事業所の所在地

主な対象 離婚、遺産分割、近隣トラブル、賃料増額等 あらゆる民事・建築紛争や医療過誤等専門的トラブル 労働トラブル限定(解雇・残業代等)
手続主宰者 一般の有識者の2名以上(家事調停では男女ペアが多い)+裁判官(通常は背後で管理) 弁護士1名(弁護士職務経験の豊富なベテランから任命される) 裁判官 + 労使の専門家
審理期間 数ヶ月〜1年程度(慎重に進行) 数ヶ月程度(迅速・柔軟に対応) 迅速(原則3回以内の期日)
相手方不出頭時の結末 不調(終了) 不成立(終了) 審判(結論)が下される

適切な手続きの選び方

トラブルに直面した際、どの解決ルートを選択すべきかは、当事者間の関係性や紛争の内容によって異なります。

  • 「離婚や親族間の問題など、感情的な対立を避けながら円満な話し合いで着地点を見つけたい」

    ➔ 裁判所の調停が適しています。

  • 「専門的なビジネスや商取引の揉め事であるため、業界の知見や法律知識を持ったプロに主導してほしい」「医療事故について病院側が責任を認めて解決金の提示をしてきたが、果たして妥当な金額なのか不安なので、できれば弁護士に依頼せずに解決したい」

    ➔ 弁護士会のADRが適しています。

  • 「労働問題について、とにかく時間をかけずに早期の解決を図りたい」

    ➔ 裁判所の労働審判が適しています。

訴訟による全面的な対立に進む前に、このような柔軟な仲介システムが用意されています。個々の事案の性質に合わせた最適なルートを選択することで、精神的・時間的な負担を抑えた形での解決を目指すことが可能です。

まとめ:ADRを利用するとき、味方の弁護士は必要?

以上、解説してきたように、ADRは相手方との話し合い、交渉を進める場としてとても有益な仕組みですし、とくに弁護士会のADRでは仲立ち役として弁護士が入ってくれるので、自分で弁護士を依頼しなくてもよいようにも思えますが、実際のところどうなのでしょうか。

結論から言うと、たしかにADRでは調停委員などは話し合いを「仲立ち役」として取り持ってはくれますが、代理人としてあなたを守ったり代弁したりしてくれるわけではないので、味方となる代理人弁護士に依頼する意義は非常に大きいです。

というのも、つぎのように、仲立ち役と代理人では役割が根本的に異なるからです。

 

  • 中立な「仲立ち役」がしないこと(できないこと)

    • 相手方だけ弁護士がつくような力量差があるケース等で、知識不足を補うフォローはしてくれるが、あなたの「味方」にはならない。

    • 中立・公平な立場であるため、相手の不当な主張から守ってくれたり、あなたの言い分を代弁してくれたりはしない。

 

  • 「味方の代理人弁護士」が必要な理由

    • あなたの正当な権利を守るために動く。

    • 仲立ち役が相手に同調し、不利な和解案を押し付けてくる流れを阻止し、正す。

ADRという話し合いの場であっても、対等に戦うためには、確かなリーガルマインドを持つ「味方」の存在が不可欠です。

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