
掃除のプロにとっては、ゴミを片付けるのが掃除ではない。美しい場所を創り出すのが掃除なのだ。

田村洋一(「CREATIVE DECISION MAKING 意思決定の地図とコンパス」90ページ)
今回は、スティーブン・R.コヴィーさんの「第8の習慣」をご紹介します。



この本は、自らの内面の声、「ボイス」を発見し、それを表現し、他者が自分のボイスを見出せるようインスパイアし、各自のボイスを融合させて第3の案を見出し、他者に奉仕するというテーマについて述べられています。
個人顧問の案内ページで、人間を目的地に向かって旅をする馬車に準(なぞら)えるお話をしました。この喩えは、古代インドの聖典『カタ・ウパニシャッド』に由来する、人間馬車説という考え方です。
馬車の構成要素
- 馬(感覚器官・感情):目や耳などの五感による感覚、感性、感情。手綱をつけて捌かないと、あちこちに動き回る性質があります。
- 手綱(心・意思・思考):暴れる馬をコントロールするための理性や意志の働きをいいます。
- 御者(理性・自我):手綱をしっかりと持って馬を正しい方向へ導く判断力。
馬車(身体):内部に主人を保護し、馬に牽引されて目的地に向かう車輌。 - 馬車の奥にいる主人(真の自己・魂):肉体や心の奥底にいる本当の自分(アートマン)。
手段と目的
- 御者による心身のコントロール:馬(感覚器官)や手綱(心)が暴れると、馬車(身体)は道に迷ってしまいます。
- 真の自己の覚醒による正しい目的:御者(知性)が正しく手綱を扱い、心を落ち着かせること、さらには、御者が馬車の奥の主人である真の自己の命令に従うことで、人生を正しい目的地へ導くことができます。
第8の習慣は、自分の内面の声(ボイス)を発見し、自分以外の他者も同じように、自分のボイスを発見できるよう奮起させ、模範となり方向性を示し、組織を整え、エンパワーメントするための本です。
「第8の習慣」:内面の声(ボイス)を発見し、他者を奮起させる道
現代の私たちは、歴史上かつてないほどの大変革の中にいます。コヴィー博士は、かつての「産業時代」から、現在の「知識労働者時代」へとシフトした今、これまでの「7つの習慣(効果性)」だけでは不十分であり、さらなる「偉大さ」が必要であると説いています。
その鍵となるのが、第8の習慣:「自分のボイス(内面の声)を発見し、ほかの人たちも自分のボイスを発見できるように奮起させる」ことです。
1. 「ボイス(内面の声)」とは何か?
ボイスとは、私たちが困難に直面したときに立ち向かう力を与えてくれる、かけがえのない「存在意義」です。冒頭の人間馬車説の観点で言うなら、馬車の奥で眠っていた主人が目を覚まして、本来の目的地を御者に告げる声です。その声は、以下の4つの要素が交わる部分に宿ります。
- 才能(知性): 生まれ持った強み。
- 情熱(情緒): 私たちを奮起させ、自然に引き出されるモチベーション。
- ニーズ(肉体): 社会が必要とし、あなたが貢献できる価値。
- 良心(精神): 正しい行動を促す内面の静かな声。
これらが重なり、世の中のニーズに応えるために自分の才能を情熱を持って役立てるとき、それは私たちの「使命(ボイス)」となります。
2. 「全人格」として人間を捉える
産業時代のマネジメントは、人を「モノ」として扱い、効率やルール、飴と鞭でコントロールしようとしてきました。しかし、知識労働者の時代には、人間を「肉体・知性・情緒・精神」の4つの側面を持つ全人格として尊重することが不可欠です。
- 肉体(PQ Phisical Quotient): 経済的安定、健康。
- 知性(IQ Intelligence Quotient): 学習、分析、創造。
- 情緒(EQ Emotional Quotient): 共感、自己認識、コミュニケーション。
- 精神(SQ Spiritual Quotient): 存在意義、誠実さ、原則の判別。
人を「モノ」としてではなく「全人格」として扱うことで、初めてその人の潜在能力を解き放つことが可能になります。
3. リーダーシップの4つの役割
リーダーシップとは地位ではなく、「人々にその人自身の価値と可能性を明確に伝え、自分の目で見えるようにすること」です。組織で他者を奮起させるために、リーダーは次の4つの役割を果たす必要があります。
- 模範になる(良心): 信頼性の手本を示す。
- 方向性を示す(ビジョン): 共通の目的を一緒に決める。
- 組織を整える(自制): 目標達成を支援するシステムを構築する。
- エンパワーメントを進める(情熱): 障害を取り除き、才能を解き放つ。
4. あなたが組織の「トリム・タブ」になる
「自分には権限がないから何も変えられない」と考える必要はありません。大きな船の針路を変える小さな方向舵「トリム・タブ」のように、どんな立場であっても自分の「影響の輪」の中で率先力を発揮すれば、組織全体に変化を起こすことができます。
問題が自分の外にあると考えるのではなく、まず自分自身の内面から変えていく(インサイド・アウト)ことが、真のリーダーシップの出発点です。
結びに
AIが一般化し、単に情報を得たり優れた思考力を発揮することは機械に代替してもらえるようになりました。これから私たちは「知恵の時代」(個人の情熱や創造性、そして普遍的な原則(良心)が最大の価値を持つ新たなパラダイムの時代)へと向かっています。情報を賢く使い、不変の原則に従って、他者に奉仕し貢献すること。それこそが、自分自身のボイスを発見し、豊かな人生と偉大な組織を築くための唯一の道なのです。

























